気が滅入ると身につける指輪がある。乳白色(月色)の小さな石が嵌め込まれている指輪。
若かりし頃夏休みに訪れた英国の鄙びた海辺の村で出会った)指輪。
あの頃は自由な時間がたっぷりあった。総てが自分の思い通りになった(と思っていた)
一つの恋が終わり旅をした。コーンウォールへの旅(“風が・・・”で短いエッセイに書き残している)ランズエンドに行く途中に通り過ぎようとした海辺の村(マウス・ホール=マウズル)はまだ眠っている様であった。その村を囲む海は真夏の光に輝いていた。小さな骨董品の店が目に入ったので朝一で入ってみた。ガラスケ―スには小さなアクセサリ―が並んでいた。その中でもあの小さな指輪は慎ましく私に語りかけてくるようであった。思わず店の主人に「これ下さい」とお願いしてしまった。「これはインドネシアの石です」英国まで来て、ランズエンドまで来てインドネシアの石?」そんな事はお構いなしで買う事にした。自分のための記念の石。もう半世紀前の思い出。
後に帰国してある宝石商の通訳の仕事をした。彼に宝石の事を教えてもらったことがある。彼は買い付けにアジアのインドネシア、中国等に出掛け原石を買い付け、自国(ドイツ)の工房でカットしジェリ―に加工し世界の有名な宝石店(ブルガリ等)に下すのだそう。ヨーロッパにはアジアにあるような色石は出土しないのでルネサンス時代にもイタリアの大富豪達がアジアの石を競って買ったそう。教会・自宅の装飾の為に鮮やかな石を使ったそう。油絵がまだ普及していない時代に色石を加工して使ったのだ。
先日TVで中国が新しく「シルクロード鉄道」を構想中で、昔は馬・驢馬等で貿易していた町や村を繋げヨーロッパまでの道を通そうとしているという話。中国はヨーロッパとの通商を考えているらしい。世界の地図が変わってゆく中、制覇したい周辺の地区等(ウイグル自治区・チベット等)の領土を次々に吞み込んでゆくような中国の動向から目が離せない。
マルコ・ポーロの『東方見聞録』を読むと14世紀頃には中央アジアの地(殆どが蒙古のハーンの土地)に豊かな地下資源・レアアース等が昔から眠っており、あの川底にはオパールが、あそこの山にはエメラルドがというように中央アジアはヨーロッパの探検家達にとって宝石・富の宝庫であって探検家達は略奪まがいの行為を繰り返してきた。こうした資源を巡って国際間で戦争・紛争が起きるのは今も昔も変わらない。
この慎ましい小さな指輪を眺めているとこれがダイアでもエメラルドでもなくて良かったと思う。

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