最近ニュースで見る「新しい現象」が気になる。文字通り樹が倒れてしまうのだ。道路や公園にある樹木が突然倒れてしまう。これらの倒木などによって、通行人が亡くなったり、けがをしたりする事故が全国で相次いでいる。11月からは国土交通省が、全国の自治体などを対象に、街路樹や公園の樹木について、事故の発生状況や点検の実施状況を聞き取る、実態調査も開始した。
私たちの暮らしに密接に関わる樹木は、なぜ倒れるのか?そして、突然の倒木から身を守る手段はあるのか?危険性がある木の簡単な見分け方について、街路樹の点検/診断を行う専門家に聞き取り、チェックリストにまとめた。
大島渡さん(街路樹診断協会 事務局長)
樹木医のなかでも一定レベル以上の診断技術を持つ街路樹診断士で10年以上、東京の樹木の健康診断を行ってきた大島さんに聞いてみた。
見た目で分かるチェックポイントとは…
“危険な木”チェックリストに依ると
<木の傾き・揺れ>
樹が不自然に傾いている樹木や押すと、根元が揺れる樹木は倒れる可能性がある。
※強く揺らすと倒れる可能性があるので注意
<枯れ枝>
枯れ枝は折れやすい状態になっているので、枝が落ちて人や物に当たる可能性がある。
<空洞>
幹が腐って大きな空洞になった樹木は幹の強度が落ちていて、腐朽や空洞付近で幹が折れる可能性がある。
〈キノコ〉
大枝や幹・根元にあるキノコは木の内部にキノコが侵入しているサイン。強度が落ちており倒木や枝折れの可能性がある。
もし“危険な木”を見つけた場合は…
街路樹であれば、国道は国、県道は県、市道は市が管理者に、ただ問題のある木の管理者を調べるのは難しいので、まずは身近な自治体に相談する。
課題は“高度経済成長期に植えた木”
今なぜ全国で倒木が相次いでいるのか?
大島さんは、その理由は高度経済成長期に、全国で急速に進んだ植樹の歴史にあると言う。
「私は街の樹木の老齢化が原因の1つだと考えています。特に街路樹は、いまから60年ほど前、高度経済成長期以降に一気に整備されました。植栽時の樹齢が仮に10年だとすると、今の樹齢は70年前後。一時期にバッと植えられた木がいま、一斉に年を取ってしまっている。実際に検査をしてみると、幹の内部や大枝の付け根など、腐朽している木も多く見られるのが実情です。」
生物学的に“樹木には寿命がない”?
自然環境では数百年という樹齢の樹木が存在していますが、樹木が存在するためには、環境ストレスが少ないその樹木に適した環境が必要というのが前提。
私たちが生きる街の環境は都会の樹木にとって非常に過酷な環境。
▶建築物や舗装の蓄熱の影響で夏場は高温にさらされる
▶土壌に水分が浸透しにくいため夏の乾燥時に土壌から水分を得ることが困難
▶山林などの環境に比べて露出している土壌が少ないため空気中の湿度が低い
▶道路の周辺は土壌が硬く「植生基盤」と言われる根が生育できる範囲の土壌が少ない
▶都市空間に合わせるため、樹木を適度な大きさに留める過剰な剪定(せんてい)を受けることがある
これらがすべて、木にとってはストレスとなる。その結果、「樹木が弱る」=「倒木リスク」はより高まっている。注意が必要なのは「樹木が元気であるということ」=「倒木や落枝の可能性が低い」ということではないということ。幹の内部は生きていない組織で出来ている。このため樹木が一見元気に見えても、幹に大きな腐朽や空洞があることがある。これらの樹木は倒木の可能性があるので注意が必要。
“街の緑”をどう維持するか
街に彩りを与える樹木とどう付き合っていけばいいのか。東京都で造園職として勤務した経験もある千葉大学大学院の竹内智子准教授に聞いた。
<樹木の役割>
▶都市環境保全:二酸化炭素吸収、ヒートアイランド現象緩和、大気汚染の改善、騒音防止、樹林地の雨水貯留・浸透など
▶景観形成:美しい都市景観の形成
▶生物多様性保全:動植物のすみか
▶防災・減災:延焼防止
▶健康・福祉:心身の健康
▶コミュニティ形成:人々の交流、郷土愛・地元愛の熟成
▶にぎわい・観光:地域経済の活性化(花見、紅葉狩りなど)
▶文化・教養:環境教育、環境学習、歴史・文化の継承
これらの役割を理解したうえで、管理者と住民が協力し合って「街づくり」を進める必要があると竹内教授は指摘する。
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